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時の記念日

猫のミミが佐々木家にやってきたのは、当時幼稚園の年長組だった直也によると、インターホンが鳴るので外に出たらゴールデンリトリバーが、ヨロシクって置いていったのだそうだ。そもそも、犬がしゃべるのかインターホン押すのかって話なのだが。
その一件以来、直也の言うことは、面白いというか信用できないというか。直也の弟の達也は、そのころまだ生まれていなくて。それが本当のことなのか作り話なのか、判別できかねるところで。でも、散歩の途中のゴールデンリトリバーが佐々木家の門のところから家のほうをじっと見ているのを、達也は実際目撃したことがあったりするのだった。
現在中学生二年生になった直也は自分のその評判を特に気にするふうもなく、そんなわけで、今日も佐々木家は平和に朝を迎えたのだった。

佐々木家のダイニングキッチンで、母親の有実子が朝食の後片付けをしていると、中学の制服姿の直也が周りをうろうろしている。
直也が
「達也は?」
と尋ねると、有実子はエプロンで手を拭きながら振り返り、
「もう、学校行ったわよ」
しまった!
「ミミは?」
「もう学校行ったわよ」
そういって、微笑んだ。
「・・・冗談よ」

その何十分かあと、一年二組の教室で、ランドセルから猫の耳が現れ、目が点になっている達也の姿があった。
筆箱だけのランドセルを開き、達也はしょんぼり椅子に座っている。
その前で担任の石岡先生が腕組みをして立っている。
石岡先生は独身で中々の美人なのだが、教師としてベテランの域に近づきつつあり、何となく、一種近寄りがたいオーラを放っていた。
「先生、ごめんなさい。わざとじゃないんです・・・」
足元で猫のミミが牛乳を美味しそうに舐めている。
石岡先生の眼鏡の奥がきらりと光った。
「それはわかってるんだけど、教科書が一冊も入ってないってのは、何?」

石岡先生が黒板に大きく「時の記念日」と書いた。
「明日は六月十日、『時の記念日』です。自分の家の中にはどんな時計があるかな?」
後ろの方で、ミミがふんわりあくびして、石岡先生が優しく微笑んだ。
「朝のテレビ!」
「パソコン」
「炊飯器!」
「腹時計・・・!」
子供たちが口々に叫んだ。
石岡先生が優しく笑い、子供たちが嬉しそうに笑い、教室の後ろの棚の上でミミがのんびり眠っている。

学校の帰り道、達也は隣のクラスの河野聡史と歩いていた。
聡史は、達也と同じ年のお姉ちゃんがいて、二人は話があうと言うか馬があうのだった。
達也は、猫のミミの入ったランドセルをしょいながらプンプン歩いている。
「お兄ちゃんは、宝くじを買っては、当たったら小遣いをくれるって言って、僕の事をこき使うんだ。いつも自分の携帯見せびらかしてるし。今日の事だって絶対、お兄ちゃんの仕業だ」
「うんうん」
聡史は深くうなずいた。
「うちのお姉ちゃん、超優等生なんだ。携帯の着メロは全部クラシックだし。弱点って言えば、朝弱いことくらいかな。僕はどこに行っても、みちるちゃんの弟って言われるんだ」
達也は深くうなずいた。
「お姉ちゃん、このごろ怒ってばっかりなんだ。部屋のドアを開けるときはノックしろとか。着替えてないときは、さっさと開けて用事を言えとか」
「二人とも、弟の苦労が全然分かってないんだ」
「いつか二人を、ぎゃふんと言わせたいものなのだ」
二人は公園の真ん中で立ち止まると、同時に時計台を見上げた。

達也は聡史と別れると、少し回り道して祖父の六助の家に寄った。
ピンポンを押しても応答がないので、達也が庭のほうにまわると、六助が庭のほうを向いて、うんうん唸って立っている。六助は、庭にいるランドセルを背負った達也に気づき、うれしそうに窓を開けた。
「おお・・・、達也か」
「おじいちゃん、それ何?」
「ダンベル知恵の輪じゃ。知力、体力を鍛える、通販いち押しの」
「ふーん・・・」
「そんなとこ立ってないで、中に入りなさい。達也がうちに寄ってくれるのは久し振りだなあ。直也はしょっちゅう来るが」
つい最近も、直也がやってきて、六助の肩を揉みながら「うちもなかなか大変なんだ。達也もまだ小さいし。僕もバイトしなきゃって思ってるんだけど。今は勉強が第一だから」
とか言いながら、お小遣いをゲットしていったのだった。
「おじいちゃん、僕、今日はお願いがあって来たんだ」
そう言うと達也はランドセルを開けた。

佐々木家のダイニングキッチンで、有実子、達也、六助が和やかに食事している。足元にはミミがいる。
「こんなに美味しい手料理を、毎日食べられるなんて、徹は幸せものだなあ・・・。家内も天国で、さぞ喜んでる事じゃろう」
有実子はうれしそうに微笑んだ。
「直也は塾で遅いし、徹さんは毎日残業で、いつも私と達也二人っきりですのよ。お義父さん、遠慮なさらないで、いつでもいらして下さいね」
「お母さん、今日は、おじいちゃん、僕の部屋で一緒に寝るんだ」
「そうなの・・・」
部屋に向かう達也と六助を有美子は穏やかに見送り、六助の荷物の枕と柱時計に首を傾げ、ミミを抱き上げた。
「ミミちゃん、今日はずっと、どこ行ってたんですか?」
「にゃー・・・」 

自分の部屋で、達也は六助持参の柱時計を三十分進めながら、
「おじいちゃん、これ、おばあちゃんとの思い出の時計にしては、ちょっと新しすぎないか?」
「まあ、大丈夫じゃろう。これくらいの年寄になると、ちょっとボケてるくらいの方が好かれるんじゃ。ところで、お父さんとお母さんの方は、大丈夫なのか?」
「お父さんは、朝めちゃめちゃ早いし、お母さんも、明日は朝早くからボランティアで出掛ける日なんだ。最大の難関は、実はお兄ちゃんの携帯の時計なんだ。お風呂入ってる時が狙い目なんだけど」
「そうか。明日が楽しみじゃのう・・」

六助が持参した柱時計が居間のテレビの上の壁にかかっている。時刻は朝の七時半をさしている。
「おじいちゃん、おはよう」
「おお。おはよう」
直也が寝ぼけ眼で起きてくると、六助が水戸黄門のビデオを見ている。
「おじいちゃん、良く眠れた?」
そして柱時計を見るなり、
「わ、こんな時間? あれ、ここにあった電波時計は? そう言えば、達也は?」
「朝練があるとか言って、早く行ったぞ」
「朝練? 小学校一年生で? ・・・鍵持って行ったのかなあ」
「大丈夫じゃろ・・・」
「やばい、入学以来続いて来た、無遅刻、無欠勤の記録が。パン焼くけど、おじいちゃんも食べる?」

お風呂場でランドセルを抱え、達也は、じっとなりをひそめている。ドアの向こうでミミが鳴いている。シ―ッと、達也は口に人差し指を当てた。
「ミミ、おはよう」
そういいながら、直也がやってきて、ドア一枚隔てた洗面所で髪を整えている。
「そろそろ、達也にも携帯持たせなきゃな」
えっ・・・?
達也は目をぱちくりした。

通学路の途中の公園の真ん中にある時計台が、七時三十五分を指している。
その時計台を見上げている、聡史の姉のみちるの姿と、その隣で同じように見上げている直也の姿があった。二人同時に携帯を取り出した。携帯の時刻は8時5分になっている。
二人同時に、
「あっ!」
「やられた!」

その日帰宅した兄の直也と姉のみちるは、何事も無かったかのように普段どおりで、その日以来目立った変化といえば、直也の携帯からクラッシック音楽が流れるようになったことや、みちるが朝早めに登校するようになったことくらいで、達也と聡史、二人が拍子抜けするくらい、毎日は平穏に過ぎていくのだった。

                      (完)
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