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紫陽花物語 4

「いらっしゃいませ。窓際の席へどうぞ」
思ったより広い店内はほぼ満席状態で、窓際のテーブル席が一つだけ空いている。
躊躇する瑠美の前をするりと抜けて、直希はその席に座った。窓越しに、外の激しい雨が見える。瑠美は仕方なく、直希の斜め向かいの席に腰を下ろした。
しばらくして、ウェイトレスが、おしぼりと水を持ってやって来た。
「ご注文は?」
「コーヒー」
直希はそう言うと、瑠美に向かって「君は?」
と尋ねた。
瑠美は戸惑いながら、
「私も。あの・・・」
瑠美が伝票は別にしてくださいと言いかけるより先に、
「コーヒー、二つね」
直希はウェイトレスにとびきりの笑顔を見せた。
ウェイトレスは、にっこりと立ち去った。
瑠美は向かいの席の直希から顔を背けるように窓の外を見た。
街全体がすがすがしいシャワーに包まれている。雨の中を楽しそうに逃げ惑う人々。
瑠美は思わず微笑んだ。
「梅雨のハシリかしら・・・」
「なるほど。みんな必死に走ってるね」
直希は感心したように頷き、悪戯っぽい目で瑠美を見た。
「あ、そういう意味じゃなくて・・・」
「お待たせしました」
先ほどのウェイトレスが、コーヒーを運んできた。
伝票を直希の近くに置いて去っていく。
「君、結婚しているの?」
そして手に持ったコーヒーカップ越しに、瑠美を真正面から見据えた。
「いえ、どうしてですか?」
瑠美は髪に手をやった。
「かわいそうに。結婚もしていないし、恋人もいないのか」
「どうして分かるんですか?」
言ってしまってから、瑠美は自分で自分の口を押さえた。
「もしも決まった人がいるなら、どこの馬の骨かも分からない男と、こうしてコーヒーなんか飲んでいないはず。ましてこんな見晴らしの良い席に座って、外に顔を向けていたりはしない」
(なるほど・・・)
瑠美は思わず頷いた。
「じゃあ、あなたは?」
「恋人はいないけど、婚約者ならいる・・・。ところで。どうしてさっき、僕の胸に飛び込んできたの?」
その言葉に瑠美は耳まで赤くなった。
「ごめんなさい・・・。美容院に行った帰りだったから。男の人にはわからないだろうけど、雨に濡れると、せっかくかけたパ―マが取れてしまうの」
直希は軽くため息をついた。
「『人は氷山に登るより、キャベツのスープを飲む』って知ってる?」
「氷山・・・」
「そう」
「キャベツ・・・?」
「そう」
思いをめぐらすように、瑠美は瞳をくるりと回した。
「ロールキャベツなら好きだけど」
直希は楽しそうに笑った。

窓越しに差し込む明るい日の光りに、瑠美はそわそわし始めた。
直希は、テーブルの上の伝票を無造作に背広のポケットにしまった。
「僕はまだここにいる。・・・きっと、 駅で雨宿りでもしているんだろう」
そう言って直希は携帯をちらりと見て、閉じた。瑠美もつられたように、携帯を見て閉じた。
「それは困ります。全然知らない人に、おごってもらう訳にはいきません」
「僕だって、女の子におごってもらう訳にいかない」
瑠美は財布を開いた。、あいにく今日に限って万札しかなく、五円玉、一円玉までテーブルの上に並べ始め
た。直希は瑠美を制した。
「悪いけど、足りてもいらないから」
「でも・・・」
「どうしても返したかったら、来週の土曜日、同じ時間にこの場所で待ってる・・・。たとえ台風が上陸しても、富士山が爆発しても。親が危篤になっても、この場所で待ってる」
笑っていいのか迷いながら、瑠美は直希を見つめた。そして声をひそめて、
「じゃあ、もしもこのお店がつぶれてたら?」
直希も同じく声をひそめた。
「その時は、運命だと思ってあきらめよう」

                     (つづく)
  

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