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神様

軽やかに、美しいベルの音が鳴り響く。
かぐわしい香りに満ち、蓮の花が水面に華やかな翳を落とす「天国研究所」
その中の一角にある、シィーの部屋。
ベッドから起き上がると、大きく伸びをするシィー。
頭には、ピカピカの金の輪が輝いている。
ベルの音に続き、降り降りてくるサンの声。
「おはよう、シィー。良く眠れましたか?」
「は、はい」
「今日から三日間、あなたに神様になってもらいます。どう? 気分は?」
「うれしいです。でも、何だか、まだ実感が湧かなくて」
「失敗しても大丈夫。(地球の)スペアもありますから」
「はい」
「基本的には好きにやってください。大学では、人間学部日本史学科でしたね? 日本に対しての少しくらいの贔屓は、目をつむります。でも、あくまでも全体のバランスを第一に考えるように。では、引継ぎは一時間後。東京の明治神宮で」
明治神宮、本殿奥。夜明け前の厳かな闇に包まれている。
神主姿のサンと巫女さん姿のシィーが、向かい合って座っている。
「あなたが何を知っていて何を知らないのか、私には分からないので、肝心なことは全て話します」
「はい」
「人間は、神のタガが外れた状態になっています。おのおのが本能のおもむくままに生きているので、気をつけないと、どんどん増えて、どうしようもない状態になります。食べ物が無くなると、共食いを始めます」
「はい」
「私の前の神様は、戦争を使って人口を減らしましたが。私はもっぱら天災にしました。大地震に大津波。人々はその方が助け合うのです。同性愛者を増やすとか、そういうアプローチの仕方を考えた前任者もいましたが。鳥インフルエンザと言う手もありますね」
「あの・・・」  
「何ですか」
「私って、もしかして死神ですか?」
「誰かがやらなければならない仕事なのです。何事も修行です」
沈黙するシィー。辺りが次第に白み始める。
若葉が朝日に映え、玉砂利の音が響く。
「夜が明けましたね」
顔を外に向けるサン。
本殿に向かって真っ直ぐ歩いてくる、若い男性の姿に気がつくシィー、目を輝かせる。
「私、生きている人間を見るのは初めてです。しかも、こんな近くで」
「静かに・・・」
本殿に向かい、手を合わせる佐藤大。
「神様、どうかシナリオライターになれますように」
サンの顔を見るシィー。微笑むサン。
「初めに言いましたね。好きにやっていいと」
うれしそうに、うなずくシィー。
「あなたの望みを叶えましょう」
驚いたように目を開ける佐藤。周りをきょろきょろ見回す。
弾むように帰っていく佐藤を見送るサン。
「それから、注意点は二つ。これだけは、絶対に守るように。人間界にどうしても降りなければならないときは、時を止めるか一瞬ですますように。問題なくダイレクトに入れる場所は神社、仏閣、教会・・・」

「天国研究所」に、美しい音楽が響く。
表参道のケヤキ並木では、金色の落葉が空中に止まっている。
走りながら止まっている人、車。
周りを映像に囲まれている部屋で、静止している青い地球を見つめているシィー。
サンが部屋に入ってくる。
「お疲れさま。お昼休みにしましょう」
「ありがとうございます」
「他の神様のところに行ってみたいんでしょう? ここは私が見ていますから、行ってらっしゃい」

「アトリエ」と書かれた扉を開けるシィー。
ピアノ曲が一瞬止まり、再び流れ出す。
パンを齧りながら、葡萄酒を飲んでいるゴー。
「こんにちわ」
「やあ。いらっしゃい」
「ラフマニノフが弾いているんですか?」
「人間は時に素晴らしいものを作り出す。私たち神が、嫉妬するほどのものを、ね。いわゆる、芸術というやつです」
部屋の中に無造作に置かれた、楽譜。絵画。彫刻。それらを興味深そうに眺めるシィー。
フェルメールの絵に目を留めると、一気に空間が広がり、フェルメールの全作品が出現する。
目を細め、その様子を見守るゴー。
「私はたまに芸術のために奇跡を起こすことがあります。何事も芸術のためです。それで、あなたの仕事に支障をきたすことがあるかも知れません」
膨大な手塚治虫の漫画のコレクションの中から一冊を手にしたシィー、顔を上げる。
「大丈夫だと思います。才能のある人間は、大きな金色のオーラを放っていますから。それに、私はおもに人間の物欲を利用して、経済的な事情で子どもの数を増やさないようにしています」
「・・・厄介なことに、人は戦争や不治の病や貧乏や手痛い失恋など、酷い目にあった場合、その能力が飛躍するのです」
「まさに、神経を使うお仕事ですね」
「またいらっしゃい。今度はエディット・ピアフの愛の讃歌を聞かせてあげましょう。彼女は恋人を飛行機事故で失わせたら、あの、聞く者の心を鷲掴みにする歌声を得たのです」
考え込みながら、アトリエを後にするシィー。

「保健室」と書かれたドアをノックするシィー。
振り返る、大量のカルテを手にした白衣のニイ。ぷんと、消毒薬の匂いが鼻をつく。
「どうしても、鳥インフルエンザの実験をされるおつもりですか?」
「ああ。天国で流行る前に、一刻も早く人間に特効薬や有効なワクチンを作ってもらわなくちゃ」
「でも・・・」
「天国でウィルスが発見されたんだぞ。犠牲者が出てからでは遅い」
「天然痘がなくなったら、結核、次はエイズ。流れ星や彗星に乗せて、ウィルスを地球に送るんですね」
「人間も動物で同じような実験をしている。面白いだろ。しかも、自分達が実験されているとは露ほどにも思っていない」
「もしかして、私たちも実験動物なんじゃないでしょうか」
ドアを開け、自分の部屋に帰っていくシィー。
腕を組み、その後姿を見送るニイ。

昼休み終了を知らせる、軽やかな音楽が響く。
回っている青い地球。
頭に真っ黒な輪を持った男の顔の映像。
息を呑んで見つめるシィーとサン。
「あれは神ですか? 人間界に送りこんだんですか? どうして?」
「人間に憑依して自分の欲望を満たし、結果、心から悔やんだらもとの神に戻れます。中にはそのまま、悪魔になってしまう神もいます」
小さな女の子を車に乗せる悪魔。顔を背け泣きだすシィー。
「余りにも残酷すぎます・・・」
サンの姿が無いことに気づくシィー。
映像の中で、女の子の透き通った体を抱き上げているサン。
次の瞬間、シィーの前に現れるサン。
「仕方がありません。私に出来ることは、死の苦しみを和らげてあげること」
倒れかかるサンを、抱きとめるシィー。
「一瞬で地球まで往復されるなんて」
「無理をしました。プロではありませんね。恥ずべきことです。昼休み、時が止まっている間に、悪魔になった神を捕まえ、ブラックホール送りにしました」   
「すみません。私が遊んでいる間に」
「今は色々な事を知る事が勉強です。それに、私は長生きをしようとは思っていません。一生は長さではありません。何を成したか、です」

シィーと共に回る地球を見ているサン。
「今日で三日目。最後ですね」
「何だか、すごく年を取ってしまったような気がします」
「人間界では十年たちましたから」
「明治神宮が懐かしいです。あれがあったから、私はやってこられた。これからも、やっていけそうな気がします」

深夜。表参道のケヤキ並木を疲れた表情で歩いている中年男の佐藤。真っ黒なオーラを放っている。
その前に突然現われる、帽子を被ったシィー。
「あんた、幸せでしょ。幸せなはずよね?シナリオライターになりたいって、望みが叶ったんだから。何が不服なのよ。昔の方がよっぽど幸せそうだったじゃない。もう、やってらんないわよ神様なんて・・・!」
シィーの完璧な美しさに目を瞠る佐藤。
「えっ、神様?」
シィーの帽子からあふれる金色の光。
魔法使い姿のサンが地下鉄の出口から勢い良く走ってきてシィーをかっさらう。
驚いて道を空ける人々。
シィーを抱き空を飛ぶサン。
明治神宮をめざす。
「あんたこそ何やってんの! この世界ではあっという間に年をとってしまうのよ!」
「すみません。でも、飛ぶのはまずくありませんか?」
「ここなら大丈夫。みんな、アホだから。何かのイベントだと思っている・・・。手に入れたとき、それは夢ではなくなってしまうの。人は、けして幸せにはなれないのよ」
歓声を上げ、空を指差す人々。
夜空を飛ぶ、サンとシィーのシルエット。
神宮の濃い緑の彼方に消えていく・・・。

朝日に照らされた明治神宮、本殿。
玉砂利の音が響く。。
神妙に手を合わせ、祈る佐藤。
「神様、どうかあの可愛い神様に、もう一度会えますように」


                               (完)
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山の彼方の空遠く・・・・

始めまして一気に読ませて頂きました、ありがとうございます。
何故かHotel California、Dust In the WindそしてRequiem for a Dreamと脳内にBGMが・・・・
また立ち寄らせて下さい。

ありがとうございます

通りすがり3号さん、ありがとうございます。
自分の作品が大好きなのですが、いいんだか悪いんだか良くわからなくなってます。
親バカだなあって、思います。
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