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春夢 2

リビングの電話が鳴った。
悟が電話に出ると、ざわざわして盛り上がっている雰囲気が受話器を通して伝わってきた。
「あ、杉田さんとこの息子さん?」
「大丈夫だ。一人で帰れる、帰れる」

お風呂場からシャワーの音が聞こえてくる。
悟はその前を忍び足で通り過ぎた。
修平が調べ物をしていると、ドアをノックする音が聞こえ、悟が顔をのぞかせた。
「おじいちゃんが、迎えに来てって。僕、行ってくるよ」
「そうか。気をつけてな」

自転車を押しながら、悟は大二郎と公園の中の小道をゆっくり歩いている。
桜の蕾がふくらみ、遠く小さな星が瞬いている。
悟は空を見上げた。
「僕、流れ星って見たことないんだ」
「可哀相に。塾や習い事で忙しくて、 ぼーっと、空を見てる暇もないんだな。美奈子に良く言って聞かせてやらにゃいかん」
大二郎は、ため息をつくとベンチに腰を下ろした。悟も自転車を止め大二郎の隣に座った。
「悟。お前のお父さんみたいに、ここぞという時には、バシッと決められる男になるんだぞ」
「・・・おじいちゃん、僕、死ぬのが怖いんだ。人は死んだら燃やされて灰になっちゃうんだ。おじいちゃんは、怖くないの?」
大二郎は胸に手を当てた。
「この世の物は全て借り物。人は、魂だけ持ってあの世へ行く」
そうして悟の頭を優しく撫でた。
「いつかきっと、おじいちゃんが証拠を見せてやる」
並んで歩いていく大二郎と悟の後ろ影を、春の夜のあたたかい風が包んだ。

台所の窓の外がパッと光り、雷鳴が轟く。
びくびくしながら美奈子が夕食の支度をしていると、突然、大きな地響きと共に家中の電気が消えた。
「キャッ!」
「大丈夫か」
修平が懐中電灯で辺りを照らした。
悟は父から懐中電灯を借りると、あごの下から自分の顔を照らして美奈子を泣かした後、大二郎を連れてやってきた。
「美奈子。ろうそくぢゃ、ろうそく」
美奈子は父が持ってきた大きな白いろうそくをテーブルの真ん中に置いた。
「おじいちゃん、マッチ」
悟がそう言うと、大二郎がマッチでろうそくに火をともした。
食卓が柔らかな光に包まれ、悟、修平、大二郎、美奈子、それぞれの顔が明るく輝いた。
不意に電気が点き、修平はテーブルの上の「たぬき」と書かれたマッチ箱をそっとポケットの中にしまった。
悟が家中の電気を消して回り、再び食卓は柔らかな光に包まれた。
蛍光灯の下で、大二郎の横顔が青ざめて見えたのは、気のせいだったのかしら。美奈子は思った。
「おじいちゃん、いつか聞いてみようと思ってたんだ。私が小さい頃亡くなった、お母さんの話・・・」
温かな光の中、大二郎の話に笑い、頷きながら四人で食事をした・・・。
「お父さん、今度みんなでお花見に行こうよ。来週の日曜日あたり、見頃らしいよ」
ジジッと音がして、ろうそくの炎が消えた。

その翌朝、何かが違うと思いながら、美奈子は離れにつづく縁側の雨戸を静かに開けた。
お雛様がきれいに片付けられ、部屋の隅に箱が積み重なっている。
美奈子は微笑んだ。
「お父さん、やっと私のお雛様しまってくれたのね・・」
異変に気づき、美奈子は大二郎の枕元に駆け寄った。

満開の桜が車窓を過ぎる。
悟は涙に滲む瞳で、じっと空を見上げていた。
喪服姿の美奈子は零れる涙をそのままに、夕暮れの中の桜をいつまでもいつまでも見送った。

それから七年がたった。
高校の制服姿の悟が鼻歌を歌いながら、整髪料を使って髪を整えている。
「悟、学校遅れるわよ」
鼻を利かせながら、母親の美奈子が現れた。
「・・・あやしいわね」
「お母さん、何だかこの頃おじいちゃんに似て来たよ。・・顔が」
「えーっ!」
焦って美奈子が洗面台の鏡を覗く隙に、悟は急いで玄関に向かった。

蕾のほころび始めた桜の下、悟と中村絵美が肩を寄せ合いながら歩いている。
と、二人同時に足を止めた。
夕闇の中、大空をマッチの炎のような大きな流れ星が閃いた。
(おじいちゃん・・・!)
「杉田君、今、何てお祈りしたの・・」
悟は絵美の耳元にそっと囁いた。
空に春の星座が柔らかく光っている。
二人のシルエットが近づき、小鳥のようにキスをした。

                                (完)
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No title

この作品は、シナリオ教室の2作目だったかなあ・・・。
久しぶりに読み返して、楽しかった。
お雛様とか停電とか流れ星とか、ありふれた日常を描いているけど。
好きな作品です。
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